『経済において購買力にまさる資源はない。購買力もまた企業家のイノベーションによって創造される。』

P.F.ドラッカー,(引用元:イノベーションと企業家精神第一部・第2章
代表取締役 瀧野 雅一
○イノベーションとは何か

 イノベーションは資源に『富を創造する能力』を与えます。それどころか、イノベーションが資源を創造します。人が利用方法見つけて経済的な価値を与えない限り、何ものも資源とはなりえません。植物は雑草にすぎませんし、『鉱物』は岩にすぎません。地表にしみ出る『原油』や『アルミ』の原料であるボーキサイドが資源となったのは、わずか百数十年前のことです。

 ペニシリウムというアオカビも単なる厄介物で、細菌学者も苦労していましたが、ロンドンのフレミング医師が、この厄介物こそ細菌学者が求めているものであることに気づきました。その時に初めて、『ペニシリン』をもたらす価値ある資源となりました。

 19世紀の初め、アメリカの農民には事実上購買力がないために、収穫用トラクターを買えませんでした。収穫用トラクターの発明者の一人、マコーミックが『割賦販売』を考えつきました。これによって農民は、過去からの蓄えからではなく、未来の稼ぎから収穫用トラクターを購入できるようになりました。突然、農機具購入のための購買力という資源が生まれました。

 初等教育の普及をもたらしたのも、教育に対する理解、教師の育成、教育学の進歩ではなく、『教科書』の発明でした。『教科書』がなければ、いかに優れている教師でも一度に一人か二人の生徒にしか教えられません。『教科書』があれば、平凡な教師でも一度に30人以上の生徒を教えることができます。

 イノベーションは技術に限ったものではありません。モノである必要もありません。社会に与える影響力において、『新聞』や『保険』をはじめとする社会的イノベーションに匹敵するものはありません。

 企業家はイノベーションを行います。イノベーションとは企業家特有の道具なのです。

○イノベーションの体系

 イノベーションの理論については、構築できていません。しかし、イノベーションの機会をいつ、どこで、いかに体系的に探すべきか、さらには成功の確率と失敗のリスクをいかに判断すべきについては、まだ輪郭だけですが解ってきています。

 企業家として成功する者は、アイデアのひらめきを持っているわけではありません。企業家は一夜で成金になるようなイノベーションを求めているわけではありません。大金持ち間違いなしというアイデアをもとに事業を起こす企業家、特に急ぎすぎる企業家は失敗を運命づけられています。

 企業家として成功する者は、その目的が利益、権力、名声、あるいは好奇心であったとしても、価値を創造し社会に貢献します。価値と満足を創造し単なる素材を資源に変えます。この新しいものを生み出す機会となるものが変化です。イノベーションとは、意識的かつ組織的に変化を探すことなのです。