『イノベーションに成功する者は保守的である。保守的ならざるをえない。彼らはリスク志向ではない。機会志向である。』

P.F.ドラッカー,(引用元:イノベーションと企業家精神 第一部・第2章
代表取締役 瀧野 雅一
●イノベーションを起こす七つの機会

 ❶予期せぬ成功と予期せぬ失敗を利用する
 ❷ギャップを探す
 ❸ニーズを見つける
 ❹産業構造の変化を知る
 ❺人口構造の変化に着目する
 ❻認識の変化をとらえる
 ❼新しい知識を活用する

❶予期せぬ成功と予期せぬ失敗を利用する

○『予期せぬ成功』
 『予期せぬ成功』ほど、イノベーションの機会となるものはありません。リスクが小さく労力も少なくて済みます。ゆえに、『予期せぬ成功』は無視された時には存在さえ否定されることがあります。
 ある病院用機器メーカーがテスト機器を開発し、企業や大学の研究所からも注文が来るようになり、よく売れた。しかし、経営層の誰も報告を受けなかったし、気づかなかった。狙った市場ではなかったし、そこに優良な顧客がいることを認識しなかった。したがって、営業マンを行かせもしなかったし、アフターサービス網もつくらなかった。7~8年経った、その市場は他のメーカーに奪われた。
 『予期せぬ成功』に気づかないのは、現状の報告システムにあります。月ごとあるいは四半期ごとの報告書は、目標を達成できなかった分野や問題を列挙しています。当然、経営会議や取締役会では、目標以上の成果を上げた分野ではなく、問題の起こった分野に関心を向けることになっているからです。

○『予期せぬ失敗』
 『予期せぬ成功』とは異なり、『予期せぬ失敗』は気づかれずにいることはありません。しかしそれが機会の兆候と受けとめられることはほとんどありません。『予期せぬ失敗』の多くは、単に計画や実施の段階における過失や無能の結果です。しかし、失敗そのものが変化とともに機会となることもあります。
 英領のインド向けに錠前を輸出していた商社がインドでの所得が上がっていくのにつれ、錠前の需要が伸びると考えたが、錠前の売行きは伸びるどころか急激に減り始めた。対策のためコストをかけずに頑丈なものに設計し直し、品質を向上させた。しかし、新しい錠前は全く売れなかった。この錠前の輸出の不振が原因となって、この商社は4年後に倒産した。
 ところが、その商社の10分の1の規模しかない競争相手が、この『予期せぬ失敗』の中に大きな変化の兆候があることに気がついた。倒産した商社の錠前はカギがないと開けられなかった。たいていカギはどこかになくしていた。したがって、カギをかけることもなかった。苦労してコストをかけてつくった頑丈な錠前は、インドの農民にとっては便利などころか、不便極まりない代物だった。競争相手の商社は押しボタン式のカギなし錠前をつくり、2年足らずでヨーロッパ最大のインド向け金物輸出業者となった。

 トップマネジメントは『予期せぬ失敗』に直面すると、いっそうの検証と分析を指示します。しかし、錠前のケースが教えてくれるように間違った反応です。『予期せぬ失敗』が要求することは、トップマネジメント自身が外へ出て、よく見、よく観察し、質問をし、よく聞くことです。『予期せぬ失敗』は、イノベーションの機会の兆候としてとらえなければな
らないのです。イノベーションで自らの事業の性格を変えてはいけません。イノベーションは多角化ではなく、展開でなければならないのです。