『企業家は体系的にイノベーションを行わなければならない。(中略)イノベーションの体系とは、具体的、処方的な体系である。(中略)具体的には、イノベーションの機会は七つある。』

P.F.ドラッカー,(引用元:イノベーションと企業家精神第一部・第2章
代表取締役 瀧野 雅一
●イノベーションを起こす七つの機会

 ❶予期せぬ成功と予期せぬ失敗を利用する
 ❷ギャップを探す
 ❸ニーズを見つける
 ❹産業構造の変化を知る
 ❺人口構造の変化に着目する
 ❻認識の変化をとらえる
 ❼新しい知識を活用する

❸ニーズを見つける

 イノベーションの機会としてのニーズは一般的なニーズとは違い、企業の内部に存在すると言われています。ニーズの利用は状況からではなく、課題からスタートします。多くの人がニーズには気づいてはいますが、手をつけられていないのが現状です。

例1) AT&T(アメリカの大手電気通信事業者)の調査部門が1909年頃、人口と電話交換手について予測を行った。その予測によれば、アメリカでは電話交換を手作業で行なっている限り、15年後には17歳から60歳までの女性の全てが電話交換手にならなければならなかった。AT&Tの技術者たちが自動交換機を開発したのはその2年後だった。

例2) オットマー・メルゲンターラーによる植字機も労働力ニーズの圧力のもとに実現した。新聞・雑誌・書籍などの出版物の爆発的な伸びが、6〜8年の従弟時代を必要とする植字工の供給を逼迫し、賃金を急激に押し上げた。その結果、印刷業者たちは労働力ニーズを痛いほど感じるようになっていた。したがって、高賃金の職人5人を1人の半熟練工に代えてくれる機械には、かなりの金額を払ってもよいと思うようになっていた。

 ニーズに基づくイノベーションが成功するには、目的や目的達成に必要なものが明確であるということが前提となります。その上で、何がニーズであるかが、明確に理解されていることが条件となります。何となくニーズがあると感じられる程度では不十分です。なぜならば、目標の達成のために何が必要なのかを明らかにしようがないからです。

❹産業構造の変化を知る

 産業と市場の構造の変化は、イノベーションの機会です。産業や市場の構造は非常に安定的に見えます。特に内部の人たちはそのような状態こそ自然で、永く続くと考えがちです。しかし、現実的には小さな力によって簡単にしかも瞬時に解体してしまいます。

例)自動車産業の場合
1900年代
・ロールスロイス 王侯の象徴となる車に特化
・フォード    大量生産する車
・GM      あらゆる階層を客とする自動車メーカー
・フィアット   軍の将校用車両メーカー
1960年代
・日本のメーカー 小型・低燃費・高品質・優れたアフターサービス
1970年代
・メルセデス   高級車・タクシー・バス
・ボルボ     センスのある車
・BMW     究極のマシーン
・ポルシェ    スポーツカー

 産業構造の変化が起こる最も識別しやすい前兆は、急速な成長です。ある産業が経済成長や人口増加を上回る速さで成長するとき、構造そのものが劇的に変化します。それまでの仕事の仕方でもある程度は成功を続けることはできますが、確実に陳腐化し始めます。そして、産業構造の変化を捉えるイノベーションが成功するには、単純なものでなければなりません。複雑なものはうまくいかないのです。