『企業が成果をあげられるか否かは、働く人達に成果をあげさせる方法、すなわち仕事のさせ方如何にかかっている。』

P.F.ドラッカー,現代の経営 第19章
代表取締役 瀧野 雅一

 IBMの社長、トマス・J・ワトソンが工場に視察に行った際、座っているだけの機械工を見かけました。なぜ働いていないかを聞いたところ、「次の工程のために機械の設定を待っています。」との答えでした。「自分で出来ませんか」と聞くと、「出来ますが、してはいけないことになっています」という返事だったそうです。

 その後、あらゆる機械工が週に何時間か、機械の設定待ちで時間を潰していることを知り、あらゆる仕事の職域拡大に体型的に取り組みました。機械の設定を教えるのは数日の訓練で十分でした。その後、完成品の検査も付け加えられました。わずかな訓練で検査ができるようになることが分かったからです。

 個々の作業は可能な限り単純化したり、意思決定のプロセスに参画させたりと働き方のイノベーションを行い、大きな成果を挙げたのはいうまでもありません。

資源としての働く人

 働く人を資源とするならば、銅や水力と同じように働く人たちを有効に使うことを考える必要があります。人的資源の優れた能力は、調整・統合・判断・想像する能力です。

 物理的な腕力や知覚する能力などは、機械の方がはるかに優れた仕事をします。人を社会的存在として認識した上で、作業と手順を考えるというアプローチが必要です。資源としてならば人を活用することができますが、資源としての人を利用・活用できるのは本人だけでなのです。

 他の資源とは異なり、働くか働かないかについてさえ、本人が完全な支配力を持っています。独裁的なリーダーは、しばしばこのことを忘れてしまいます。指示・命令だけで本当の仕事を行わせることは出来ないのです。つまり、人的資源には常に動機付けが必要となるのです。

 積極的な動機付けを生み出すことこそ、マネジメントが直面する緊急の中心的課題なのです。

それでは働く人に対して会社は何を要求すれば良いのでしょうか?

 一般的には、『正当な賃金に対する正当な労働』というのが決まり文句です。しかしドラッカーは、「その答えは間違ったものを要求していることになる」と、断言しています。

①会社の目的に進んで貢献すること

 働く人は命じられたことだけを行えば良いということではなく、業績に対する責任を積極的に担うことを要求しなければなりません。

②変化を進んで受け入れること

 企業にとってイノベーションは不可欠な機能です。そのためには人も変わらなければなりません。変化を受け入れてもらうためには変化が合理的と受け取られること、つまり、人にとって変化が進歩であることが必要です。ただし、同僚との関係、仕事に関わるスキル、誇りなどを壊すようではいけません。


 人は誰でも勤勉です。逆に人は働きたがらないと仮定するならば、人と仕事のマネジメントは絶望的になります。働く人たちの意欲を知り、参画させ、働きたいという欲求を引き出せるように、マネジメントしていきましょう。