『今日欠けているものは、ビジョンの有効性と実用性を測る基準である。ビジョンが事業の未来を築くには、厳格な条件を満たさなければならない。』

P.F.ドラッカー,創造する経営者 第11章
代表取締役 瀧野 雅一

 ビジョンは実用的な有効性をもたらさなければなりません。そのビジョンについての話ができるだけなのか、それとも、そのビジョンに基づいて行動を起こすことができるのかを考え、そして行動しなければならないのです。素晴らしいビジョンでも考えているだけであれば、それは良き意図に過ぎません。

◯経済的な成果をあげられるか

 ビジョンは、経済的にも有効でなければなりません。ビジョンを実現するには時間がかかります。実現できないこともあります。

 しかし、実現した暁には製品やサービスには顧客・市場・最終用途が存在しなければなりません。研究もビジョンを実現するものでなければなりません。当たり前のことですが、研究にお金を使うだけではいけないのです。利益をあげて売ることができ、顧客のニーズを満たさなければなりません。

 ビジョンの有効性の基準は、人気者になることでも注目を集めることでもありません。あくまで、経済的な成果であり、業績です。事業の目的が社会の改革であったとしても、ビジョンの有効性の基準は事業としての繁栄なのです。

◯必要なのは献身と勇気

 どんなビジョンも、全てが順調というわけにはいきません。成功するかもしれませんが、失敗するかもしれません。未来自体が不確実であって、リスクを伴うものだからです。不確実であって、リスクを伴うものに対し、莫大な資金を時には借金をして投資します。ビジョンを実現するということは、自ら未来を発生させることです。ビジョンを実現するための行動を起こすには、才能ではなく勇気が必要なのです。

 そして、「そのビジョンを心から信じていますか?」、「本当に実現したいですか?」、「本当にその仕事がしたいですか?」の問いに対する答えに躊躇するようであればダメです。なぜならば、ビジョンに対する献身と信念がなければ必要な努力も持続しないからです。もちろん熱狂的であってはなりません。

 起こることは望めば起こるということではなく、たとえ最大の努力を傾けたからといって、必ずしも起こるものではないことも認識しておかなければなりません。

 現在の事業を、効率的なものにすることさえできない企業やマネジメントが多いことも事実です。そのような企業でも、しばらくは存続することはできます。特に大企業は歴代のマネジメントの勇気やビジョンのおかげで、長い間苦労しなくてもすみます。

 しかし、明日は必ずきます。そして明日は今日とは違います。今日最強の企業といえども、未来に対する働きかけを行なっていなければ、いずれ苦境に陥ります。個性を失い、リーダーシップを失ってしまいます。残るものといえば、大企業に特有の膨大な間接費だけなのです。