『イノベーションと起業家精神にとって最大の障害は規模の大きさではない。それは既存の事業であり、特に成功している事業である。』

P.F.ドラッカー,チェンジリーダーの条件 part5・2章
代表取締役 瀧野 雅一

 問題は日常的に起こります。すぐに対応し、解決しなければなりません。既存の工場・技術・製造ライン・流通システムなど、たゆまぬ努力が必要です。したがって、既存の事業はいつも優先してしまいます。先延ばしにはできないため、優先することは当然のことです。

 これに対し、新規事業は既存の事業の規模や成果には及びません。取るに足らず、将来さえわかりません。イノベーションによる新規事業で成功するためには、意識的な努力や新しい知識を身につけるための学びが必要です。そのために仕事をするのです。

◯起業家精神が生まれる構造

 イノベーションを行うのは人です。人は組織の中で働きます。イノベーションを行うためには、そこに働く人間の一人ひとりがいつでも起業家になれる構造であることが理想です。報酬、報奨、人事を優れた起業家精神に報いるためのものにするのです。起業家精神を阻害するものにしてはいけません。

 既存の事業には、何がしかの価値があります。既存の事業と比較して、新規事業は確信のないつまらないものに見えてしまいます。その上、悪戦苦闘するイノベーションを養うのは、既存の事業だからです。

 したがって、既存の事業に責任を持つ人たちは新しい起業家的な事業やイノベーションに関わる活動を、手遅れになる程先延ばしにしてしまいます。既存の事業を担当する人
たちは、既存の事業の拡大、修正、調整しかできないと認識しておかなければなりません。

 新規事業は規模、売上、市場は小さなものかもしれません。しかし、トップマネジメントの1人が、将来のためにその特別な仕事に責任を負わなければなりません。専任であ
る必要はありませんが、権威と権限を持つ者が全面的に責任を持つようにしなければならないのです。

◯新規事業をおろそかにしない方法

 新規事業はいわば赤ちゃんであって、赤ちゃんのままでいる期間は長くなります。しかし、成人すなわち既存の事業や製品を担当する人には、赤ちゃんに割ける時間はありません。理解もできませんし、そもそも関わっている余裕がないのです。

 したがって、新規事業をおろそかにしない方法は、初めから独立した事業としてスタートさせることです。新市場に参入したばかりの新製品に、既存の事業と同じ負担を負わせると、そもそもチャレンジしたがる人がいなくなります。

 新規事業には、既存の事業とは違うシステム、ルール、評価基準が必要となるのです。