『トップマネジメントの仕事は多元的である。その仕事の種類は一つではない。複数である。』

P.F.ドラッカー,マネジメント【下】第50章
代表取締役 瀧野 雅一

 職能別組織、チーム型組織、分権型組織などのトップマネジメント以外のマネジメントは、一つの仕事に専念できます。ところが、トップマネジメントはそうはいきません。トップマネジメントの仕事は、多岐にわたっています。

トップマネジメントの仕事
① ミッションを考える役割

  会社の事業全体を見ること、今日のニーズと明日のニーズとのバランスを図ること、成果に向けて人財と資金を配分することができる人にしかできません。さらに目標の設定や戦略と計画の作成、明日のための意思決定という役割が派生します。

② 基準を設定する役割

  会社全体の規範を定める役割があります。会社には目標と実績との違いに取り組む機関が必要です。ビジョンと価値基準を策定しなければなりません。これも組織全体を見ることのできる機関の果たすべき役割です。

③ 組織をつくりあげ、それを維持する役割

  明日のための人財、特に明日のトップマネジメントを育成する必要があります。組織の精神を作り上げることもトップマネジメントの役割です。

④ 渉外の役割

  顧客や取引先との関係だけでなく、金融機関との関係や行政との関係もあります。組織全体を代表し、発言をし、コミットすることのできる者だけが扱える仕事です。

⑤ 公的行事や夕食会への出席などの儀礼的な役割

  大企業よりも地域において目立つ存在になっている中企業、小企業のトップマネジメントとして逃れられない仕事です。

⑥ 著しく悪化した状況に取り組む役割

  重大な危機に際しては自ら出動するという役割があります。有事には最も賢明で、最も秀でた経験豊かなものが、腕をまくって出動しなければなりません。法的な責任もあります。放棄することのできない仕事です。

 これでもトップマネジメントが行う仕事としては、一部に過ぎません。
 トップマネジメントの仕事には分析、思考、比較、調整など多様な能力が要求されます。
 さらに迅速さと、大胆さが必要です。知覚、人間性、共感、人への敬意も必要です。人と会うことを楽しみ、何もいわずに好印象を与える能力まで必要とされます。
 トップマネジメントの仕事は、「思考する人間」、「行動する人間」、「人間的な人間」、「代表する人間」の少なくとも4種類の人間であることを要求します。しかしながら、4 つの気質を併せ持つ人はあまりいません。
 したがって、トップマネジメントの仕事は小さな企業は別として、一人の仕事ではなくチームによる仕事として組み立てる必要があるのです。