『必要なのは、景気循環への依存から自らの思考と計画を切り離してくれる手法である。』
P.F.ドラッカー,現代の経営【上】第8章
どんな事業計画も、経済情勢を無視することはできません。同じ意思決定でも、好況時に実施した場合と不況時に実施した場合では、その有効性や成否は大きく違ってきます。『不況の底では投資をし、好況のピークでは拡張や投資は避けた方がいい』ということは言うまでもありません。株で例えるなら、『安く買って、高く売れば良い』のと同じで、誰でも理解はしていることです。
しかし問題は、この助言を『どのように使ったらいいのか』、『現在は景気循環のいかなる段階にあるのか』、『誰が知っているのか』を知ることができないことにあります。
経済の専門家ですら予測の的中率は高くありません。しかも、専門家による景気予測が正しく行われるとするならば、そもそもこの助言の意味がなくなります。なぜなら、みんながこの助言に従うと好不況がなくなります。そのような助言に従うことが心理的に不可能だからこそ、極端な景気循環が起こります。好況時には多くの人が『今度こそ景気に天井はない』と信じてしまいます。逆に、不況時には『今度こそ景気回復は望めず、景気は悪くなる一方、あるいは、底にへばりついたままであるに違いない』と思い込んでしまいます。
景気循環に焦点を合わせているかぎり、どんなに優れた意図を持って経済学の優れた分析能力を駆使したとしても、間違った決定を行うことになってしまいます。
事業のマネジメントに必要なのは、経済が景気循環のいかなる段階にあるのかを考える必要なしに意思決定を行えるようにしてくれる手法です。
○景気循環を迂回する
確かに好不況はあります。しかしそこに『周期性はあるのか』、『予測の可能性はあるのか』との問いに答えがあるのでしょうか?景気循環は、あまりに多くの変動要因の総合なので、事後的にのみ分析が可能なのです。過去の景気循環を説明できたとしても、将来の景気循環を予測することができない分析は、事業のマネジメントにはほとんど役に立ちません。したがって必要なのは、景気循環への依存から自らの思考と計画を切り離してくれる手法なのです。
○意思決定のための手法
①最悪を想定する
過去の経験から想定される最も急激かつ最悪の状況を想定することによって、意志決定そのものを景気循環に関わる推測から解放することです。決定が正しかったかどうかはわかりませんが、必要最小限の利益を知ることが可能です。
②すでに起った未来を探す
すでに起こってはいるが、経済への影響がまだ現れていない事象に基づいて意志決定を行います。人口構造の変化、規制緩和や規制強化、新技術の開発、世の中の価値観の変化などに基づいて意思決定を行います。気をつけなければならないことは、何事も将来必ず起こるとは限らないということです。もし起こるとしても、いつ起こるかはわからない
ということです。
いずれにしても、将来に関わる意思決定は推測にすぎません。しかも推測は間違うことの方が多いので、変更・適応・応急措置の準備はしておかなければならないのです。