『起業家戦略には四つある。総力戦略、ゲリラ戦略、ニッチ戦略、顧客創造戦略である。』
P.F.ドラッカー,チェンジリーダーの条件Part5・4章

③ニッチ戦略
ニッチ戦略には三つ(❶関所戦略❷専門技術戦略❸専門市場戦略)あります。それぞれに特有の条件、限界、リスクがあります。
※前回からの続きです
❷専門技術戦略
大手の自動車メーカーの名前を知らない人はいません。ところが、電気系統システムを供給する部品メーカーの名前まで知っている人はあまりいません。部品メーカーの数は、自動車メーカーよりも少ないです。自動車の部品メーカーは、専門技術によって、ニッチにおける支配的地位を獲得して以来、その地位を維持してきました。
例) アメリカではGMのデルコ・グループ、ドイツではロベルト・ボッシュ、イギリスではルーカスなど
専門技術戦略は、タイミングが重要です。新しい産業、新しい習慣、新しい市場に新しい動きが生まれます。その動揺期にスタートしなければなりません。専門技術戦略を使うためには、どこかで何か新しいこと、付け加えるべきこと、あるいはイノベーションが行なわなければなりません。
◯専門技術戦略の条件
・新しい産業、市場、傾向が現れたときはできるだけ早く、専門技術による機会を体系的に探さなければなりません。なぜなら、そのための専門技術を開発するための時間が必要だからです。
・独自かつ異質の技術を持たなければなりません。
例) 初期の自動車メーカーは、機械の専門家だった。機械や金属やエンジンについては熟知していたが、電気については素人だった。必要とされたのは自動車メーカーが保有せず、修得の道も知らない知識だった。
・専門技術戦略によってニッチ確保に成功した企業は、絶えずその技術の向上に努めなければなりません。つねに一歩先に出なければなりません。
◯専門技術戦略の限界
・自らの支配的地位を維持していくには、焦点を絞らざるをえません。自らの狭い領域、専門分野だけを見ていかなければなりません。
・ほかの者に依存しなければなりません。この製品やサービスは部品です。自動車の電気系統の部品メーカーにとって、消費者が彼らの存在を知らないことは強みでもあり、弱みでもあります。
・もっとも大きな危険は、専門技術が専門技術でなくなり、一般化してしまうことです。外部環境のわずかな変化にも適応しづらいのです。しかし、そのような限界の枠内では、専門技術による地位は極めて有利です。急速に成長しつつある技術・産業・市場では、もっとも有効な戦略です。
1920年に存在していた自動車メーカーで、現在も存続している会社はほとんどありません。これに対し、電気系統の部品メーカーの多くは生きながらえています。自動車のユーザーも、ヘッドライトやブレーキのメーカーを気にしたりしません。
専門技術によるニッチ市場が、偶然見つかることはあまりありません。イノベーションの機会を体系的に探すことによって、初めて見つけられます。起業家は、支配的地位を得られそうな専門技術が開発できる分野を探すのです。
※次回に続きます