『起業家戦略には四つある。総力戦略、ゲリラ戦略、ニッチ戦略、顧客創造戦略である。
P.F.ドラッカー,(引用元:チェンジリーダーの条件 Part5・4章)

※前回からの続きです
④顧客創造戦略
顧客創造戦略は、イノベーション自体が戦略です。製品やサービスは以前からあるものです。以前からある製品やサービスを新しい何かに変えるのが、顧客創造戦略です。効用や価値、あるいは経済的な特性を変化させます。物理的な変化ではなく、経済的に新しい価値を創造します。
❶価格戦略
例)ジレット
世界中の何百万人の男性が毎朝ジレットのカミソリの刃を使っている。ジレットのものが特に優れているわけでもなく、安全カミソリを発明したわけでもない。生産コストはむしろ高い方。卸価格¢22、小売価格¢55にし、生産コストの5分の1の価格をつけた。ただし、自社の刃しか使えないようにした。刃1枚の生産コストが¢1以下だが、¢5で販売した。刃は6~7回使用できたので、¢1以下で髭を剃ることができ、床屋の10分の1以下の価格だった。ジレットが行ったことは、メーカーが売るものではなく、消費者が買うもの、つまり髭剃りそのものに値をつけることだった。消費者の方も他社の安全カミソリを$5で買い、¢1か¢2で刃を買ったほうが、総額としては安上がりなことは知っていた。しかし、ジレットの価格設定は彼らにとって意味のあるものだった。彼らは髭剃りに対して対価を払うのであって、物に対して払うものではなかった。ジレットのカミソリとその刃は安全で、且つ、近くの床屋よりもはるかに安いものだった。
❷事情戦略
例)サイラス・マコーミック
マコーミックは収穫用トラクターを開発したメーカーの一つにすぎなかった。需要があることは確かだったが、他のメーカーと同様に農民に製品を売ることはできなかった。なぜなら、農民に購買力がなかったからだ。トラクターの代金が2~3年で回収できることは、誰にでもわかっていた。しかし当時、農機具を購入する資金を農民に貸す銀行はなかった。そこで、マコーミックは3年分割払いで売ることにした。その結果、農民は収穫用トラクターを買えるようになり、収穫用トラクターの市場を獲得した。
メーカーは、合理的に行動しない顧客に対して愚痴をこぼします。しかし、合理的に行動しない顧客などはいません。顧客は常に合理的に行動します。単に、顧客の事情がメーカーの事情と違うだけなのです。メーカーや供給者はなぜ、顧客が不合理に見える行動をするのかを考えなければなりません。顧客の合理性に適応すること、時には顧客の合理性を変えようとすることが、メーカーや供給者の仕事なのです。
❸価値戦略
例)潤滑油メーカー
土木工事業者にとっての価値は、ブルドーザーの稼働時間です。潤滑油は大量に使用するものの価値そのものではない。その潤滑油メーカーは自社の潤滑油を使用する前提で、年間のメンテナンス計画と費用を提示し、潤滑油を原因とする年間稼働時間の損失を一定時間内に抑えることを保証した。土木工事業者は潤滑油を買うのではなく、稼働時間という大きな価値を買うのである。
起業家は自らが賢いからではなく、他の者が何も考えないから成果を上げられるのです。顧客にとっての価格、顧客にとっての事情、顧客にとっての価値からスタートすることがマーケティングの全てです。マーケティングを行うものだけが、少ないリスクで市場におけるリーダーシップを手に入れられるのです。