『イノベーションに成功する者は保守的である。保守的ならざるをえない。彼らはリスク志向ではない。機会志向である。』

P.F.ドラッカー,イノベーションと企業家精神 第一部・第11章
代表取締役 瀧野 雅一

 医師も長くやっていると、奇跡的な回復に立ち会うことがあります。不治の病が突然良くなることがあります。自然に回復したり、信仰によって回復することもあります。一般的には奇妙と言われるような食事療法で治る患者さんもいます。このような奇跡を認めずに、単に科学的ではないとして片付けるのは間違いです。なぜならば、それらのことは実際に起こっているからです。

 しかし、だからといってそれらの奇跡的な回復を医学書に載せたり、医学生に講義する者はいません。なぜならば、それらのことは、再現したり、教えたり、学ぶことができないからです。しかもそれらの療法によって回復する人は少なく、多くは死んでしまいます。 これと同じように、目的意識・体系・分析と関係なく行われるのが、勘によるイノベーションや天才的なひらめきで行われるイノベーションです。そのようなイノベーションも再現できません。教えることも学ぶこともできません。天才になる方法は教えられないのです。

○イノベーションの条件

①イノベーションを行うには、機会を分析することから始めなければなりません。分析は体系的に行わなければなりません。また、機会を体系的に探さなければなりません。

イノベーションを起こす七つの機会
  1. 予期せぬ成功と予期せぬ失敗を利用する
  2. ギャップを探す
  3. ニーズを見つける
  4. 産業構造の変化を知る
  5. 人口構造の変化に着目する
  6. 認識の変化をとらえる
  7. 新しい知識を活用する        

※1~7は、別の機会に掲載します。

②イノベーションとは、理論的な分析であるとともに、知覚的な認識です。イノベーションを行うにあたっては、外に出て、見て、問い、聞かなければなりません。イノベーションに成功する者は、右脳と左脳の両方を使います。数字を見るとともに人を見ます。

③イノベーションに成功するには、焦点を絞り単純なものにしなければなりません。新しいものは必ず問題が生じます。複雑だと直すことも調整することもできません。最高の褒め言葉は「なぜ、今まで思いつかなかったのか」です。

④イノベーションに成功するには、小さくスタートしなければなりません。大がかりな構想、産業に革命を起こそうとする計画はうまくいきません。限定された市場を対象とする小さな事業としてスタートさせなければなりません。さもなければ、調整や変更のための時間的な余裕がなくなります。変更が効くのは、規模が小さく人材や資金が少ない時だけです。

⑤小さく始めるとはいえ、最初からトップの座を狙わなければなりません。そもそもイノベーションが大事業となるか、まあまあの程度で終わるかは知りえません。しかし、最初からトップの座を狙わない限り、イノベーションとはなりえず、自立した事業にもなりえないのです。

 イノベーションにはリスクが伴います。しかし、スーパーへ買い物に行くことにも何がしかのリスクがあります。あらゆる活動にリスクが伴います。しかし、過去を守ること、すなわちイノベーションを行わないことの方が、未来を創ることよりも大きなリスクを伴うのです。