『企業家は体系的にイノベーションを行わなければならない。(中略)イノベーションの体系とは、具体的、処方的な体系である。(中略)具体的には、イノベーションの機会は七つある。』

P.F.ドラッカー,(引用元:イノベーションと企業家精神第一部・第2章
代表取締役 瀧野 雅一
●イノベーションを起こす七つの機会

 ❶予期せぬ成功と予期せぬ失敗を利用する
 ❷ギャップを探す
 ❸ニーズを見つける
 ❹産業構造の変化を知る
 ❺人口構造の変化に着目する
 ❻認識の変化をとらえる
 ❼新しい知識を活用する

❷ギャップを探す

 ギャップは現実にあるものと、あるべきもの、あるいはそうあるべきとしているものとの乖離です。原因はわからないどころか、見当さえつかないことがあります。ギャップの存在はイノベーション機会を示す兆候なのです。

・業績ギャップ

 製品やサービスに対する需要が伸びていれば、業績も伸びていなければなりません。利益を上げることは容易なはずです。そのような状況にありながら業績が上がっていないのであれば、何らかのギャップが存在すると見るべきです。

例)鉄鋼業における電炉
鉄鋼の需要は着実に伸びていたが、高炉メーカーの業績には失望させられることが多かった。業績のギャップは設備投資が巨額で、生産能力が大幅に増大することだった。新設の高炉の稼働率は需要が新たな生産能力に追いつくまでの間、低いものとならざるをえない。電炉は決して小さな製鉄所ではないが、最低規模の一貫製鉄所と比較して、1/6〜1/10にすぎない。したがって、電炉は需要に合わせて生産能力の増大を小きざみに行えた。

・認識ギャップ

 内部の者が物事を見誤り、現実について誤った認識を持つとき、その努力は間違った方向に向かってしまいます。成果を期待できない分野に集中してしまいます。そのときそれに気づき利用する者にとっては、イノベーションの機会となる認識ギャップが生まれます。

例)世界貿易の担い手たるコンテナ船
海運業界は船舶の高速化、省エネ化、省力化など、成果をあまり期待できない課題に力を入れていた。海上すなわち港と港の間の経済性を追求していた。船舶は資本財で、資本財にとって最大のコストは遊休時間である。利益を生まない物に対し金利を払わされる。海運業で働く者はそれまで、すでに低くなっているコストに力を入れ続けた。問題の解決は、積み込みと輸送の分離という簡単なことだった。事前に作業ができる陸上で積み込みを行なっておき、あとは入港した船に載せるだけのことだった。それは、船舶の稼働時ではなく、遊休時のコストの削減に努力を集中することだった。海上輸送は5倍に伸び、輸送コストは60%削減され、船が港に停泊する時間も3/4に削減され、港の混雑や盗難も減少した。

・価値観ギャップ

例)テレビの普及
テレビは高すぎて貧しい人たちには買う余裕がないと思われていた。テレビの普及はテレビの与えるものが経済合理性の外にあることを示していた。経営者には、豊かでない人たちにとってテレビは単なるモノではないことが見えていなかった。彼らにとって、テレビは新しい世界との接触であり新しい生活と人生だった。
例)車の普及
マイカーよりタクシーの方が安くていいと思われていた。しかし、車の普及は車が単なる移動手段ではなく、自由・移動・ロマンであることを教えた。

 価値観ギャップの背後には、傲慢・硬直・独断があります。「貧しい人たちが何を買えるかを知っているのは、彼らではなく私である」という考え方です。必要なのは、自分たちにとっての価値が顧客にとっての価値であるという信念を持たなければなりません。一つひとつの仕事の価値を信じ、真剣に取り組む必要があるのです。