『ベンチャーが成功するには、四つの原則がある。』

P.F.ドラッカー,(引用元:チェンジリーダーの条件 Part5・3章
代表取締役 瀧野 雅一

     既存の企業にとって、「起業家マネジメント」というとき、ポイントになるのは前半の「起業家」にあります。ベンチャーにとってのポイントは「マネジメント」にあります。既存の組織にとって、起業家精神の障壁となるのは既存の事業ですが(No.63参照)、ベンチャーにとって、起業家精神の障壁になるのは既存の事業の欠落にあります。

     ベンチャーにはアイデアはあります。製品やサービスもあります。売り上げもあるかもしれません。時には、かなりの売り上げがあるかもしれません。しかし、ベンチャーには確立された事業と呼べるものがありません。永続的な活動としての事業がないのです。何を行い、何を成果とし、何を成果とすべきかが明確な事業がないのです。

     ベンチャーは、どんなにアイデアが素晴らしくても、どんなに資金を集めたとしても、どんなに製品が優れていたとしても、さらにはいかに需要が多かったとしても、事業としてマネジメントしなければ生き残れないのです。マネジメントとはボスになることではなく、チームをつくることなのです。

    第一の原則 常に市場中心で考える

     ベンチャーが生き残れなくなった時、「後発が出てくるまではうまくいっていた」、「後発もうちとはたいして変わらないのに」、と言いがちです。まさにベンチャーが成功する時は予想もしなかった市場で、予想もしていない顧客が、予想もしていなかった目的で買ってくれるときです。予期せぬ市場を活用できるように組織しておかなければなりません。市場中心でなければ、単に競争相手に機会をつくっただけになってしまいます。

    第二の原則 財務上の見通しを立てておく

     財務上の見通しを持たないことは、成功するほどに大きな危険となります。急成長しているベンチャーが行き詰まる原因は、だいたいいつも同じです。

    1. 手元のキャッシュがなくなる
    2. 事業拡大のための資本が不足する
    3. 支出・在庫・債権を管理できない

     ベンチャーの起業家がお金に無頓着であるわけではありません。むしろ貪欲です。しかし、利益を重視してしまいます。利益は結果としてもたらされるもので、最初に考えるべきものではありません。利益よりも、現金・資本・管理のほうが先です。これらのものがなければ、利益の数字も絵空ごとで終わってしまいます。目の前の利益はすぐになくなってしまいます。切迫した状況のもとで資金を調達することは、事業がうまくいっているときでも困難で、コストも余分にかかります。しかも重要な時期に、重要な人材の時間とエネルギーが銀行まわりや財務見通しの練り直しに奪われてしまいます。再び時間と頭脳を事業に集中できるようになった頃には、機会を逃すことになってしまいます。

     ベンチャー起業家は未収金・在庫・製造コスト・管理コスト・アフターサービス・流通など、あらかじめマネジメントできるように準備しておかなければならないのです。

    ※第三・第四の原則は次号掲載させていただきます。